物流先進国アメリカに学ぶトラックドライバーの労働規制対策とは?~物流2024年問題“後”の世界~ 前編

「物流2024年問題」という名前で連日のように報道されているトラックドライバーの労働時間規制の厳格化。
 
新しいトピックのように思えますが、北米では第二次世界大戦前から継続的にトラックドライバーの労働時間規制について議論されてきたことをご存知でしょうか?
 
実はジャロックが日本総代理店も務めている北米の「Rite-Hite(ライトハイト)」社は、トラックドライバーの労働時間規制を追い風にして業容を大きく拡大した物流機器メーカーです。
 
この記事では「Rite-Hite」社の歴史を紐解きながら、2024年以降に日本の物流業界がどう変化していくのかについてご紹介していきます。

【※本コラムは前後編の前編です。後編はコチラ!


目次[非表示]

  1. 1.トラックドライバーの労働時間規制とは? 
    1. 1.1.トラックドライバーの労働時間
  2. 2.「物流2024年問題」とは 
  3. 3.誤解だらけの「2024年問題」議論
    1. 3.1.2024年問題の影響としてメディア等で報道されている主な内容
    2. 3.2.トラックドライバーのうち宅配便の配達担当者はごく一部でしかない
    3. 3.3.「物流2024年問題」以外にもトラックドライバーにかかわる規制は多数存在する
      1. 3.3.1.・運転時間
      2. 3.3.2.・休憩時間・休息期間・休日
      3. 3.3.3.・大型トラックの法定速度
    4. 3.4.運送事業者の法令遵守
  4. 4.真の課題は「荷待ち時間」と「附帯作業」の短縮
    1. 4.1.荷待ち時間
    2. 4.2.荷役・附帯作業
  5. 5.まとめ


トラックドライバーの労働時間規制とは? 


トラックドライバーの労働時間

引用元:厚生労働省「統計からみるトラック運転者の仕事」https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work


厚生労働省が公開している 「賃金構造基本統計調査」によると、令和3年度における中型トラックドライバーの年間労働時間は平均2,484時間、大型トラックドライバーに至っては平均2,544時間にもなります。これは全産業の平均である2,112時間よりも15%以上多く、長時間労働が常態化している業種であることが分かります。
 
その一方で、令和3年度における中型トラックドライバーの年間所得額は平均431万円、大型トラックドライバーでも平均463万円と、全産業の平均である489万円よりも低水準です。

つまり、トラックドライバーは現状「肉体的にキツいにもかかわらず、他業種よりも稼げない仕事」となり、求職者にとって魅力的な職業とは言い難い状況にあります。
これを裏付けるように、厚生労働省の「職業安定業務統計」によると、トラックドライバーの有効求人倍率は令和2年度以降2倍超で推移しており、全職業平均を大きく上回っています。

これはトラックドライバーの求職者に対して2倍以上の求人があるという意味で、トラックドライバーを新たに雇用したい企業の約半数が人員確保できていないということになります。


引用元:厚生労働省「統計からみるトラック運転者の仕事」https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work


2024年4月からトラックドライバーの労働時間規制が厳しくなる法改正が行われたのも、長らく放置されてきたトラックドライバーの長時間労働問題を是正するとともに、待遇改善による人手不足解消を目指したものと言えます。





「物流2024年問題」とは 


「物流2024年問題」とは、2024年4月1日から適用される「働き方改革関連法」に基づき、これまで実質的に制限がなかったトラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることに起因する、様々な問題の総称として用いられている用語です。
また、1日あたりの拘束時間も最大16時間から最大15時間へ短縮されます。

引用元:国土交通省「物流の2024年問題について」https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf


そもそも「働き方改革関連法」では、2019年4月に全産業に対して『時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間に制限する。労使間で36協定を結んだ場合でも時間外労働は年720時間以内とする』という法改正をしています。

しかし、この規制と実状がかけ離れている自動車運転業務をはじめとした一部の業種に関しては、施行を5年間、つまり2024年4月まで猶予するとされました。

トラックドライバーのほか、タクシードライバーやバス運転手等についても同様の規制が2024年4月から施行されるため、ドライバーの人員確保は物流業界以外のドライバーでも大きな課題となっています。

施行の準備期間も含めれば5年以上も前から規制強化されることがわかっているにもかかわらず、物流業界の対策は十分に進んでいるとは言い難く、行政やメディアに警鐘を鳴らされているのが現状です。

引用元:国土交通省「物流の2024年問題について」https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf


全日本トラック協会が2022年に実施したアンケートによると、年間960時間超の時間外労働をしているドライバーの数は全体で約3割、長距離トラックのドライバーに限ると約4割にも達するという結果が示されています。

規制により影響を受けるドライバーの数は未だに少なくありません。




誤解だらけの「2024年問題」議論


ここまで、「物流2024年問題」の概略をご紹介しましたが、この問題については見当違いな議論をされているケースが散見されます。



2024年問題の影響としてメディア等で報道されている主な内容


トラックドライバーの時間外労働時間に上限が設けられた結果、
 
 運送会社が受注できる仕事量が減少して収益が悪化するのではないか
 
 ただでさえ全業種平均よりも低いトラックドライバーに割増で支払われていた残業代まで無くなり、収入が減少してしまうのではないか
 
 トラックドライバーの総稼働時間が減少してしまうことで従前と同じ規模の運送が維持できなくなり物流網が混乱するのではないか
 
といった懸念が出ていると報道されていることが多いです。



トラックドライバーのうち宅配便の配達担当者はごく一部でしかない


メディア等で「物流2024年問題」が取り上げられる際、解決策として宅配業者の再配達を効率化などがセットで紹介されることがあります。

しかし、宅配便の配達用トラックに乗務しているトラックドライバーは、全体の1割程度でしかありません。


トラックドライバーの大多数は企業間取引に係る運送業務に従事しており、準中型以上の車両で日本中の港湾・物流施設・工場・建設工事現場などを行き来して日本の物流を支えています。

全日本トラック協会が公開した『日本のトラック輸送産業―現状と課題―2023』を見ると、令和3年度における国内の営業用トラック車両数約150万台のうち、約86%が準中型自動車以上の車両で占められています。

宅配便の戸別配送に使われているような2tトラックよりも小型の車両は、全体のごく一部でしかないことがデータ面からも確認できます。

引用元:全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業―現状と課題―2023」https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/yusosangyo2023.pdf p.9


つまり、宅配業者の業務改善は(宅配ドライバーの労働環境改善としては意義のあるものではありますが)「物流2024年問題」の解決策の本質ではありません。


「物流2024年問題」で話題になっている規制も、主にBtoB取引に携わっているトラックドライバーを念頭に置いたものといえます。


また、今後日本でも普及する可能性がある「インターモーダル輸送(コンテナごと輸送)」とそれに、発生する事故リスクと予防方法を紹介した資料を下記にて無料ダウンロード可能です。




「物流2024年問題」以外にもトラックドライバーにかかわる規制は多数存在する


「物流2024年問題」で話題に上がるのは、時間外労働上限をはじめとした2024年4月に改定される規定が中心ですが、トラックドライバーの業務に係る規制はその他にも多数存在します。

その中でも特に重要なものを抜粋して以下にご紹介します。


・運転時間

トラックドライバーの1日あたりの運転時間は2日(48時間)平均で9時間までと定められています。
たとえば12時間運転したドライバーは、その翌日は最大6時間までしか運転できません。
 
また、1 週間の運転時間も 2 週間ごとの平均で 44 時間までと定められています。週5日勤務の場合、1日平均で4.4時間までということになります。



・休憩時間・休息期間・休日

連続運転時間は4時間を限度として、運転4時間ごとに計30分以上の休憩などの運転を中断する時間が必要と定められています。
 
また、1日のうち拘束時間以外の時間(休息期間)が継続8時間以上必要です。たとえば24時に運転を終え業務を終了した場合、翌日の8時までは業務を再開することはできません。
 
さらに休日とした日については「上記の休息期間(最低8時間)+24時間の連続した時間」を下回ってはならないとされ、これを経ずに業務を再開することはできません。



・大型トラックの法定速度

ほとんどの長距離トラック輸送で使われる大型トラックの法定速度は現在80km/Hです。また、平成15年からは大型トラックへの速度抑制装置(スピードリミッター)装着が義務化され工場出荷時点で最大90km/Hまでしか速度が出ないようになっています。
 
この規制は高速道路で発生した死亡事故や重大事故の多くが制限速度である80km/Hを超える速度で走行した大型トラックによるものだったため設けられたものなのですが、「物流2024年問題」への対応策としてこれを緩和しようという動きも出ています。



運送事業者の法令遵守

このほかにもアルコール検知器や運行記録計の取付義務など、トラックドライバーの運送業務には実に多くの規制が課されています。
 
これらの法令を遵守しようとすると、片道で9時間以上かかるエリアへ配送したドライバーは運転時間規制(2日平均で9時間以内)により翌日戻って来ることができなくなります。法定速度の80km/Hで9時間運転すると理論上は720km移動できることになりますが、実際には高速道路の渋滞もあれば、インターチェンジを降りた後の信号待ちの時間もあるため、現実的に法令を遵守しながらトラックが2日で往復できる限界距離は東京~大阪間(約500km)程度ではないでしょうか。

これらはトラック物流の現場からするとかなり厳しい規制です。
「これでは仕事にならない」と、常習的に違反行為を行っている運送事業者も存在すると言われており、違反行為が多く認められた業種については重点的に行政の立入調査が行われています。





真の課題は「荷待ち時間」と「附帯作業」の短縮


では、運転時間については各種規制により制限がかかっているにも関わらず、トラックドライバーの労働時間が長くなってしまうのはなぜでしょうか?


その答えは「運転以外の時間が非常に長いから」です。



BtoB運送において、 特に問題となっているのは「荷待ち時間」「荷役・附帯作業」です。




荷待ち時間


荷待ち時間とは、「トラックドライバーが荷物の積み下ろしのために待機する時間」のことです。


全日本トラック協会の「荷待ち時間削減に係るリーフレット」によると、トラックドライバーの荷街時間は平均1時間18分、1日の拘束時間全体の1割以上を占めていると言われています。

1日に複数箇所を巡る特積み輸送のトラックでは、1箇所あたり10分前後の荷待ち時間であっても積み重なれば何時間にもなってしまうケースがあります。

出典:全日本トラック協会「荷待ち時間削減に係るリーフレット」https://jta.or.jp/pdf/logi2024/flyer01.pdf


この荷待ち時間は、

「荷積み場所に到着したが、まだ積載するべき荷物が準備されていなかった」

「荷積み場所にピックアップ用トラックが行列していて順番待ちになった」

「荷下ろし場所に到着したが、荷積み作業を優先されて待たされた」

「荷積み/荷下ろし場所の作業員が人数不足で荷物移動に時間がかかった」

「配送管理システムの遅延」

など様々な理由で発生しますが、共通するのは「荷主都合」という点です。



荷役・附帯作業


荷役とは、「トラックへの荷物の積み込み、積み下ろし作業」のことです。
附帯作業とは、「トラックドライバーが行う運転以外の業務」のことで、具体的には、検品・保管場所までの横持ち運搬・商品仕分け・資材廃材等の回収・納品場所の整理・棚入れ・ラベル貼りなどの各種業務を総称したものにあたります。
 
荷役や附帯作業の有無や種類は業種により様々ですが、トラックドライバーの一部は荷主の業務を肩代わりする形でこれらの業務に従事しているのが現状です。


引用元(上):全日本トラック協会「トラック輸送状況の実態調査(全体版)結果概要」https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/kyogikai001128768.pdf P.8
引用元(下):国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001409525.pdf


荷役や附帯作業は、トラックドライバーの労働時間を削り取っているだけでなく、荷主の業務を肩代わりしているにもかかわらず運送会社へ荷役や附帯作業分の料金を支払われていない状態(支払は運賃分のみで附帯作業分はサービス扱い)で業務に従事しているケースも多く、特に深刻な問題とみなされています。

出典:全日本トラック協会「附帯作業軽減に係るリーフレット」https://jta.or.jp/pdf/logi2024/flyer01.pdf


また、トラック運送業の約99%が中小零細企業であり、荷主に対しての交渉力が弱いことも待遇改善に繋がりにくい一因です。

出典:全日本トラック協会「附帯作業軽減に係るリーフレット」https://jta.or.jp/pdf/logi2024/flyer01.pdf




まとめ


本コラムでは、前編として、日本の「物流2024年問題」の概要とともにトラックドライバーの業務には多種多様な規制が行われていることと、トラックドライバーが運転業務に専念できない大きな理由として「荷待ち時間」と「荷役・附帯作業」の存在をご紹介しました。

後編では、米Rite-Hite社の歴史とともに、日本に先行して行われている北米のトラックドライバーの労働規制対策から学ぶ、具体的な対策についてご紹介します!


▶▶後編:北米の物流の歴史とRite-Hite社をモデルにした2024年問題対策 はこちら



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